2024/05/02
2024年2月にApple Vision Proが発売され、仮想現実の魅力と可能性が広く知られるようになりました。XRはエンターテイメント分野だけでなく、日常やビジネスシーンをも変革していきます。
本記事ではXRがコンテンツマーケティングで果たす役割、導入プロセス、XRコンテンツの事例について詳しく解説します。
目次
技術 | VR(仮想現実) | AR(拡張現実) | MR(複合現実) |
特徴 | デジタル環境に完全没入 | 情報をリアル環境に投影 | 現実と仮想の相互作用 |
注目の用途 | ゲーム教育トレーニングエンターテイメント | マーケティング教育ナビゲーション | 技術継承トレーニングシミュレーション |
主なデバイス | Meta Quest PlayStation VR | Apple Vison ProWebAR(スマホなど) | Microsoft HoloLens |
XR(Extended Reality/Cross Reality)は、VR(Virtual Reality)、AR(Augmented Reality)、MR(Mixed Reality)を総称する技術です。現実世界とデジタル情報の融合を実現させ、日常からビジネスまで多岐にわたる分野での応用が進められています。
XRデバイスの小型化・高性能化と、通信の高速大容量化(5Gなど)により、リアルで没入感の高いXR体験が身近なものになりました。また、リモートワークやDX推進のソリューションとしてもXRは注目されています。
ゲームやエンターテイメントでのXR技術導入は進んでいますが、ビジネス分野でも活用されるようになりました。「XRが注目される背景」で触れたリモートワークやDX分野だけでなく、社内教育や技術継承でXRは大きな役割を果たします。
さらに、仮想現実世界は「メタバース※1」として認知され、コンテンツマーケティングを進めるうえで重要なドメインとなりつつあります。
世界的スポーツ用品メーカーである「NIKE」はオンラインプラットフォーム『Roblox※2』内のブースでブランディングを進めています。国内では、通信業界大手の「NTTグループ」がDOORという独自メタバースを構築しています。
※1 メタバース(Metaverse)はインターネット上の仮想空間を総称したものです。
※2 Robloxは米国発のオンラインゲームプラットフォームです。ユーザーは自分だけの世界やゲームを作成することができます。
XRは従来のコンテンツマーケティングをどのように変えていくのでしょうか。ここでは、XRがコンテンツマーケティングで果たす役割を具体的に解説します。
XR体験ではユーザー個人の嗜好や行動履歴に基づいて、最適化された没入型コンテンツを提供することができます。メタバースではユーザーの好みに合わせた環境設定が可能です。VRを用いて製品の仮想体験を行う際も、ユーザープロファイルから年齢や性別、関心事などを分析し、コンテンツの内容や表現を調整します。
ARを用いたコンテンツ投影はタイムリーに行うことができます。目の前の道にエスコートポイントを投影させ、店舗などへ案内させることもできます。他にも、店内のレイアウトや売り場の案内、期間限定のセール情報などを投影することで、購買活動はより促進されます。
XRのコミュニケーションでは、文字や2D映像を超えた臨場感と親密性を体感できます。マーケティングにおいては、製品の具体的なデモンストレーションや質疑応答を効果的に行うことができ、顧客体験を向上させます。
XR技術は高速大容量の通信ネットワークを基盤とし、インタラクティブなコミュニケーションを実現させます。ユーザーのリアルタイムデータの収集/活用も容易です。収集されたデータはクラウド上で一元管理され、マーケティングチーム全体で即時共有されます。
リアルで臨場感に富んだXRコンテンツは、製品やサービスに対する理解を深め、強いインパクトを与えてくれます。例えば、新車のVR展示では内外装を自由に見渡せるだけでなく、ドライビングも仮想体験できます。
自社のコンテンツマーケティングにXRを導入するプロセスを7つのステップで解説します。
目標とターゲットオーディエンスを決めていきます。この段階では、既存のコンテンツマーケティング戦略との整合性を確認し、必要に応じて調整を行います。
XR活用によって達成したい目標(製品理解度向上、ブランド認知拡大、販売コンバージョン改善など)の明文化、ターゲットとするオーディエンスの属性や嗜好、行動特性などの分析を進めましょう。
関連記事:コンテンツマーケティングのKPIとは?目標の可視化と達成度の確認
どのようにXRコンテンツをマーケティングに導入していくのかを具体的に立案していきます。スケジュールや予算やチーム構成なども重要な項目です。XRコンテンツを制作するうえで必要となる技術者やクリエイター、機材などを見積り、必要に応じてアウトソーシングを計画します。
立案担当者はマーケティングチームだけでなく、セールスやカスタマーサポートからのフィードバックをしっかり取り入れ、調整を行います。経営陣とも連絡を密にし、経営戦略との整合性を図ります。
技術 | プラットフォーム |
VR(仮想現実) | Horizon Worlds, VRChat |
AR(拡張現実) | ARアプリ (ARCore/ARkitで作成),WebAR |
MR(複合現実) | Microsoft HoloLens(Windows,Visual Studioで開発) |
コンテンツマーケティングで使用するXRプラットフォームを決定していきます。重要となるのは、ターゲットオーディエンスのデバイス利用状況と親和性です。
XRプラットフォームとしては、Horizon WorldsやVRChatのような完全なメタバースタイプ、スマホを利用したARアプリ(ARCore/ARkitで作成)タイプがあります。
独自のXRプラットフォームを構築することも可能ですが、これには大規模なリソースが必要になります。自社で対応が難しい場合は、既存デバイスやプラットフォームの利用がおすすめです。
コンテンツマーケティング成功のポイントは、顧客に最適化されたコンテンツです。XRを用いることで、コンテンツのパーソナライゼーションは加速します。よって、顧客の多様なシーンとニーズに対応したコンテンツ作りを進める必要があります。
具体例としては、AIを活用した自動フィッティングコンテンツ、部屋のレイアウト提案コンテンツなどが挙げられます。顧客の実用性を追求したコンテンツを作ることが大切です。
開発チームや社内スタッフがXRコンテンツを使用し、ナビゲーションの利便性、インタラクティビティの効果、快適さなどを評価します。特にVR環境においては、ユーザーがどの程度「酔い※3」を感じるかを実際の体験をもって評価しましょう。
社内試験が完了したら、外部のテスターグループにもコンテンツを試してもらいます。異なる年齢層や性別の方々に試用してもらい、広範囲なデータとフィードバックを得ます。
※3 VR体験で起こる可能性がある乗り物酔いに似た症状
XRコンテンツを中心に据えつつも、ブログ、SNS、メールマガジン、ウェビナーなど他のマーケティングチャネルと連携させることが大切です。SNSでのXR体験のティーザー共有、Webサイトやメールを通じてXRコンテンツのリンク配布を進めていきます。
XR技術自体が目新しいということもあり、コンテンツがSNSなどで大きな反響を生む可能性もあります。UGC※4も多く投稿されるようになれば、商品・サービスの認知度も向上し、コンテンツマーケティングの成功に大きく近づきます。
※4 UGC(User Generated Content)はユーザーが作成したコンテンツ全般を指します。XR体験の投稿などが挙げられます。
XRコンテンツが正確で鮮明であることは、ユーザー体験にとって極めて重要です。継続的なモニタリングを実施し、情報劣化や表示エラーなどのトラブルは迅速に対応しましょう。
また、XRデバイスや関連ソフトウェアはアップデートされていきます。最新のデバイスやソフトウェアに合わせて、機能の改善、セキュリティの強化、パフォーマンスの最適化を図っていく必要があります。
国内外のXRを用いたコンテンツマーケティング事例を、使用されるXR技術ごとに紹介します。
2024年4月時点で、MRは主にメーカーの製造ラインの効率化、もしくは技術継承に使用されています。しかし、将来的には商品・サービスのソリューションをサポートするツールとして採用される可能性があります。ウェビナーなどで特に大きな役割が期待されます。
企業名 | 日産自動車株式会社 |
XRプラットフォーム | VRChat |
公式サイト | 日産のVRワールド |
日本の大手自動車メーカー「日産自動車」はVR空間での車両展示や試乗会を行っています。使用されるXRプラットフォームはVRChatです。VRChatアカウントがあれば、誰でも無料でVR体験が可能です。ユーザーは実際に店舗を訪れることなく、車の外観や内観を詳しくみることができ、試乗もできます。もちろん、担当者との商談も可能です。
企業名 | Inter IKEA Systems |
XRプラットフォーム | IKEAアプリ |
公式サイト | IKEA Kreativ |
スウェーデンの家具メーカー/小売「イケア」は、自社アプリ内で家具のARレイアウト機能を実装しています。ユーザーは商品を買う前に、ARで家具などを部屋に配置し、イメージアップを図ることができます。サイズ感もしっかりと掌握できるため、とても実用的です。AR配置した商品はそのままアプリ上で購入できます。
企業名 | 大日本印刷株式会社、AKIBA観光協議会 |
XRプラットフォーム | cluster、Webブラウザ版 |
公式サイト | VIRTUAL AKIHABARA |
国内印刷会社大手「大日本印刷」はAKIBA観光協議会と協業し、VR空間に秋葉原を構築しました。ユーザーは仮想秋葉原でイベントを楽しんだり、観光を楽しんだりできます。秋葉原の魅力を世界に知ってもらうためのプロジェクトです。インバウンド増加やブランディングといった効果が期待できます。
XR技術はコンテンツマーケティングに新たな可能性をもたらし、ユーザー体験を向上させます。一方で、導入コストや情報管理の面で注意すべき点もあります。
XRコンテンツの開発には、XR専門デバイス(VRヘッドセット、AR対応デバイス、サーバー)や開発環境(PCやソフト)が必要です。全て自前で開発するのではなく、社内リソースに応じて、外注をうまく利用することで、導入コストを抑えることができます。
既存のプラットフォーム利用もコストを抑えるうえで有効です。VRChatやclusterなどはビジネス向けの活用例が多くあります。
XRアプリケーションは位置情報、視覚情報、さらには個人識別が可能なバイオメトリックデータなど、非常にセンシティブなユーザーデータを収集・処理することがあります。このため、適切なデータ保護とプライバシー確保は必須です。
また、XRコンテンツは世界に向けて配信されます。地域によって異なるデータ保護法規に従うことが求められます。特にEU圏内※5やカリフォルニア州※6など、厳格なデータ保護法が存在する地域で事業を展開する場合、これらの法律に準拠して導入計画を進めなければなりません。
※5 GDPR(General Data Protection Regulation)は欧州のデータ保護法です。
※6 CCPA(California Consumer Privacy Act)は米国カリフォルニア州のデータ保護法です。
XR分野の進歩は著しく、世界中のメーカーがさまざまな機能を持ったXRデバイスを発売しています。企業はしっかりと新デバイスや技術に対応していく必要があります。XRの業界ニュース、展示会、技術セミナーなどで最新情報を入手し、それぞれのデバイスやソフトの有効性を比較しましょう。
新しいものを全て導入するといったことではなく、マーケティングを優位にする技術を選別し、投資対効果をしっかりと考慮することが大切です。
コンテンツマーケティングを進めるうえで、XRの活用は効果的です。XRはユーザー体験を向上させ、これまで以上にパーソナライズされた情報を顧客に届けます。
以上、XRがコンテンツマーケティングで果たす役割、導入プロセス、XRコンテンツの事例について解説させていただきました。
株式会社S-Fleageでは、XRコンテンツの制作から運用までをサポートいたします。具体的なXRプラットフォームやデバイス選定の際も、企業に最適化されたアドバイスとソリューションを提供させていただきます。ぜひ、お気軽にご連絡ください。